5回目 大切なのは、病気になる前にそれを防ぐ医療
寺田先生は「メディカルフットパス」についても触れられています。フットパスをみんなで歩いたら健康になるんじゃないか、というお医者さんとしての提案なんですが、素人の僕からすると、医者がみんなが健康になるような提案をしたら、商売上がったりになってしまう気がするんですよ。いかにみんなが不健康になって、病院に来てもらって金になってもらうのが給料に繋がる気がするんです。いや、すいません。大阪人なものですから、金のことばっかりゆーて。健康になるための方法を医者がわざわざ提案するのはどういう気持ちからなんでしょうか?
僕たちが医療として大切にしているのは、「源流にさかのぼる」という考え方なんですね。
源流にさかのぼる?
例えば失太川でたくさん溺れている人がいる。それに対して、高度医療で助けるという医療をするのではなくて、溺れている人がいるということは上流に何かがあるかもしれない。それで上流にさかのぼってみる。そうするとおんぼろの橋があって、そこから人が落ちている。同じように、病気になる前に何が起きているのか、僕たちは何ができるのかを考えていく。今の日本の医療は後追いの医療なんです。病気になってから保険診療で儲かる。そうではなくて、ヨーロッパでは健康になるために医療保険が使われるんですよ。ドイツで「クアオルト」という制度があって、黒松内町みたいな自然豊かなところで温泉の治療を2週間処方され、保険診療が使えるんです。
おぉ、いいなぁ。
そうやって予防して、病気にならない方が国費を出さなくていいんですよ。日本は病気になってから高度医療を使って、保険が破綻しかかっている。そうじゃなくて、病気にならないためにお金をかけることによって、国から出るお金を防ぐことができる。ヨーロッパはそういう考えで今、動いているんですね。だから、僕たちの家庭医療はプライマリーケアといって、みなさんのゲートキーパー(最初の入り口の門番)となって病気にならないためにどうするか、ということをするんですね。
プライマリーケアは今、注目されていますね。
北海道の離島である天売島では、1家族に1カルテがあって、この家では塩分何グラム摂取しているということも書かれている。保健師さんが入って、塩分濃度が高いから、ここではそういう講演会をして、高血圧や脳梗塞、心筋梗塞の発生を防ごうと。それが本当の医療じゃないかなぁと僕は思うんですね。僕たち医療側の人間が健康づくりに関わって、患者さんが病気になってから来るのではなく、健康になるために相談しにくる。そしてもっと検診を行っていくような診察所になっていけばいいかな、と思っています。
メディカルフットパスの可能性を教えてください。
今、黒松内町ではフットパスを縦横無尽に展開しています。そこにメディカルフットパスという、ある程度医療的な負荷をかけていくようなコースや、高齢者の方や障害を持った方でも歩けるようなフットパスがある。
いろんな人たちに対応したフットパスですね。
本当にちょっとした小道でもいいと思うんです。駅前から商店街、それから商店街と商店街を繋ぐ、食べものを買って食べられるフットパスだったりね。いろんな形のフットパスをどんどん作っていくことが、黒松内町の健康づくりになるのかなぁと。医療的な側面も視野に入れて、いろんな意見も出してもらって、「こんなフットパスは面白いんじゃない?」とかね。これがメディカルフットパスの考え方です。
なるほど。やっぱり僕は医者にならない方がいいなと反省しましたね。源流をさかのぼるというのは、人をいっぱい溺れさせておいて、それを治療して金を儲けるというのではなくて、源流で壊れそうな橋を直すことも医療の行為であると。
そうです。
聞いていて思い出したんですが、日本のお医者さんだったと思いますけど、海外の発展途上国、開発途上国を支援しに行こうと、ペストやコレラで亡くなる方が多いところに診察に行って、ワクチンを打ったりしていた。それをずっとやっていたんですが、患者は常に長蛇の列で、次から次へと患者は増え続ける。もう汗だくになって、テントの中でずーっと診療しているんだけどキリがない。それで、途中でキレて、白衣を脱いで下水道を掘りに行ったそうなんです。下水道が完備されていなくて、悪いウイルスに侵された人たちが次から次へとやってくるわけだから、下水道を掘ろうと。それはすごく面白い話だなぁと思いました。
病気になる原因をなくすということですね。
メディカルフットパスもみなさんが使うようになって、その道沿いにヘルシーなお店ができたり、何かおもしろいレクリエーションがあったり、絶景な風景が見えるところがあったりね。そういうルートができたら、観光にもつながる。「我々はこれで豊かに暮らしているんだよ」という街を自分たちで1つずつ作っていくのが大事だと感じましたね。今日はありがとうございました。
ありがとうございました。