2回目 地域をリサーチし、必要としていることを知る

山崎さん

今後、地域医療は何がこれまでと変わってくるんですか?

寺田先生

僕は札幌医科大学の地域医療総合医学講座という、地域医療を専門に学ぶ講座にいました。「地域医療とは何だろうか?」ということで、地域を学ぶには地域を出ないとわからない。北海道の道東ほか、いくつか地域を回りましたね。僕は札幌医科大学の地域医療総合医学講座という、地域医療を専門に学ぶ講座にいました。「地域医療とは何だろうか?」ということで、地域を学ぶには地域を出ないとわからない。北海道の道東ほか、いくつか地域を回りましたね。

山崎さん

そうなんですね。

寺田先生

地域医療とはただ地域で医療をすることではない。地域を“診断”して、つまりその地域が何を必要としているのかを知る。患者を見て診断し治療するように、地域を見てその地域で必要なことをするのが地域医療だという考え方で、地域診断をしました。当初、調べていくと、ないもの探しになってしまったんですね。

山崎さん

ないもの探し?

寺田先生

この地域にはあれがない、これがない、MRIがないって。確かにニーズ探しが目的ですが、そうじゃないな、って。そこで、僕はアセッツ・マッピング(注:地域の良いところをマッピングしていくこと)をして、それぞれ地域には良さがあり、そこに対してどのような医療をしていくかということを考えるのが重要だと気がついたんですね。

山崎さん

「アセッツ」とは、「財産」という意味ですね。

寺田先生

そう、財産、資源です。例えばこの地域だったら、自然が豊かなフットパスがあるじゃないかとか。それを利用して、今ある課題をクリアにしていくことが大切だってことに気づかされて、行政の人たちと一緒に少しずつ取り組みました。いろんな地域の診療所を回りましたが、黒松内町が一番、魅力的だと思ったんです。良い資源がたくさんある。だからここで僕たちの診療所を展開したいと考えました。僕の原点として、そういう地域の見方、そして地域医療のあり方がありますね。

山崎さん

地域医療というと、なんとなく「在宅」というイメージがあるけれど、それより先にその地域がどんな力をもっていて、どういう風に繋がると、地球まるごと医療空間みたいなものが実現できるか。それを把握した上で、在宅医療や訪問医療について考えていくということですね。

寺田先生

結局、地域だと病院にそんなに大きなベッドは持てない。それぞれの家がベッドみたいなものですよね。だからそこで最期を看取りたいご家族は看取ることができるし、望むのであれば病院で最期を迎えることもできる。治療もふまえた上で訪問診療がある。だから在宅というのは、ある意味、地域まるごとが診察所だというのが僕の考え方です。

山崎さん

僕の友人に建築家でデザイナーの岡昇平さんという方がいるんですが、僕と同じ年ぐらいなんですね。「みかんぐみ」という横浜の建築事務所で働いていたんですが、事務所を辞めて香川県にある実家に帰ったんです。彼の実家は旅館をやっていて、温泉が出るからといって、試しに掘ってみた。そしたら温泉が湧き出てきた。36度ほどのぬるめの湯だったんですが、仏生山温泉という温泉をそこに開業しました。その友人が社長を務めることになって、設計もやったら、かっこいい温泉になった。

寺田先生

それはいい。

山崎さん

3〜4年ぐらい営業してから、彼が温泉だけじゃなくて、「まちぐるみ旅館」をやりたいと言い始めた。つまり、自分の住んでいる街を1個の旅館として考え、空き家などをリノベーション、改修してベッドを置く。街の道路は旅館の廊下で、街の食堂は旅館の食堂と考える。旅館の風呂は自分のところの温泉がある。街を全部旅館と見立ててみたらどうだろう、ということを10年ぐらいやっています。少しずつ客室ができあがって、今、予約するとどこかが空いている。外の食堂に食事に行って、温泉に寄って部屋に帰ってくる。浴衣姿でみんな、街を歩いている。今、寺田先生のお話を聞いて、街全体が病院と考えるとそんな感じかもしれないと思いました。

寺田先生

そうですね。

山崎さん

新潟県長岡市には「こぶし園」という、特別養護老人ホームがあるんですが、4人部屋だったんですね。25室あって100人の高齢者がそこで生活ができた。ちょっと山の上の方にあったんですけど、老朽化してこの建物を立て直そうとなった時に、当時の施設長が高齢者をこういった施設に集めるというのは良くないんじゃないか?と考え始めて、入居者を各町に分配していったんです。小規模の特別養護老人ホームのようなものを10ヶ所ぐらいに作った。先ほどと同じですね。道路が特養(特別養護老人ホーム)の廊下だ!という考え方です。

寺田先生

なるほど。

山崎さん

24時間ナースコールも受けられるように、高齢者がいる住宅にはiPadのようなタブレットもある。地域まるごと特養のように面倒を見ていこうと、こちらも10年前から取り組んでいますね。介護保険法が施行された2000年を過ぎたあたりから、高齢者向けの施設や高度医療も大事なんだけど、それだけじゃなくて、地域の健康や幸せを考えたら住んでいる場所のことをもっと考えなければという風に変わってきた。街を病院に見立てたら、道路が廊下になるかもしれない、というところから新しい地域の医療や福祉ってことが現実味を帯びて出てくるようになってきたんじゃないかという気がします。